走って転んで立ち上がって

寂しさの紛らわし

マンガ大賞2018受賞作「BEASTARS」がめちゃくちゃ面白かった件

今年のマンガ大賞のニュースが飛び込んできた。

普段から漫画はあまり読まない私だが、詳細を調べてみると面白そうで興味が湧いた。

 

全然動物には興味がない私が、試し読みを読んだだけで嵌ってしまった。

 

まず、設定。

動物世界が舞台となっており、人間は1人も出てこない。

肉食動物と草食動物という相反する関係性を中心として物語が進んでいく。

動物と言っても高度な知能を持ち、言葉も操り二本足で歩行する。

ケモノだけど、人型に近い。

肉を食べることは最大のタブーとなっている。

 

次に人物相関図。

草食動物、肉食動物たちの対立や共存、個々の思惑が交差して、

あれやこれやと考察できるくらい複雑だ。

 

最後に人物描写。

登場キャラクターに事情を抱えた動物が多く、個々の価値観や性格が細部まで練られている。

彼らの背景というか、闇が興味深い。

ネガティブな部分もきちんと描かれている。

表面をなぞるような描写ではなく、本質を捉えて感情に訴えかけられる。

 

以下は作者の技術に関してだが、

絵が上手い。タッチが女性的だなと思っていたら、作者はやはり女性だった。

絵に癖がなく、誰でも突っつきやすい印象だ。

重要な場面での感情描写も上手でリアリティがある。

 

 

私は特に主人公のレゴシというハイイロオオカミの青年が好きだ。

イヌ科最大の肉食獣ということもあって、本人のポテンシャルはかなり高いはずなのに、肉食動物である自分の本能に悩み苦しんでいる。

 

結局、動物の本能は生存と生殖だ。

本能には抗えずにいる。

レゴシは優しくて繊細なオオカミだ。

このような内面とは裏腹に肉食獣であるオオカミに生まれてしまったがために、自分のあり方について悩んでしまうのだ。

まだ17歳という設定だし、オオカミである自分とレゴシである自分と自らのアイデンティティに揺れ動いている。

ハルという草食動物であるウサギに対する思いもこれが狩猟本能なのか愛情なのか悩む描写が続く。

 

動物であるがゆえの本能に対する向き合い方がこの物語では大きな要素となっている。

現実の人間である私たちも本能に抗い続けていないだろうか。

人間の性欲だって本能だ。

女性である私からすると常に「男性はオオカミだ。」と思っている節がある。

これってレゴシとハルの関係に似てないか。

 

高知能を有する私たち人間は物事の分析や決定に知能と理性の力に頼りすぎているように感じる。

人間である以前に哺乳類動物であったはずなのに文明の発展とともに本能の力が非常に弱まってしまった。

 

現代だからこそ、本能を重要なテーマにした本作は人々の心を捉えたのだと思う。

きっとどこかでみんな、このままでよいのだろうかという気持ちがあるんじゃないだろうか。

そして、レゴシの苦悩の先にある成長は私たちにとっての希望にもなりえるのだ。